国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア『Branded Shorts』授賞式に見るブランデッドムービーの今②

2017/7/10

6月7日、米国アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア内において、企業や広告会社がブランディングを目的に制作したショートフィルム(ブランデッドムービー)を表彰する『Branded Shorts』の授賞式が東京・恵比寿で開催されました。本記事では、授賞式前に開催されたグローバルカンファレンスから、授賞式の審査員トークまでの様子をレポートします。

◆広告賞ではなく、映画祭としての評価とは?

映画監督の崔洋一氏や、電通の高崎卓馬氏など、映画、文学、広告などの業界を超えて構成された審査員と受賞者。

今年が2年目となる『Branded Shorts』では、映画監督である崔洋一氏や、電通の高崎卓馬氏など9名が審査員を担当。映画、文学、広告などの業界を超えて構成された審査員によって、国内外からの応募作品36本のなかから、日本作品と海外作品のそれぞれに、最優秀賞にあたる「Branded Shorts of the Year」が選ばれました。

ここで確認しておきたいのは、これが広告賞ではなく、あくまで映画祭の中のブランデッドムービーを評価するための部門だということです。

ブランデッドムービーを「生活者にとっての価値(エンターテイメント性や有益性)」と「企業やブランド側からのメッセージや理念」を両立できるコンテンツと定義する『Branded shorts』では、ブランディングという目的の中で、シネマチック、ストーリーテリング、エモーショナル、アイデア、オリジナリティ、プロダクションクオリティ、グローバル性という独自の7つの視点を基に審査が行われます。

この7つの視点そのものにやや曖昧さを感じていたのですが、予感した通り審査委員長であった崔洋一氏の挨拶にも「審査が大変でした」という言葉がありました。今受け手にとって、これらブランデッドムービーは一体どういうジャンルだと認識され、何が良しとされるのか。受賞作品を含め以下の作品を観て読者の皆さんはどう感じるでしょうか。

◆ブランドに着地するのか

『Notes』
カナダ/3:49/2017
広告主:Take Note
監督:Chris Booth & Joel Pylypiw
広告会社:BBDO Toronto
制作会社:Skin & Bones

インターナショナルカテゴリーで選ばれたのは、カナダ・トロントの文房具店Take Noteのブランデッドムービー。

ある夫婦の間で繰り広げられるメモ上でのやり取りを、手先とペンだけを使って表現した作品です。「限られた制約の中で、二人の人生が手に取るように伝わって」きたこと、「人生の紆余曲折をドラマチックに描きだす様は愛に溢れ、人生のシナリオとしてすべての人の心に刺さる」という点などが評価されていました。

《Branded Short of the Yearナショナルカテゴリー》

 『THE WORLD IS ONE FUTURE,JAPAN,SOUTH AFRICA,AND AUSTRALIA』
日本/3:00/2016
広告主:トヨタ自動車株式会社
監督:永井聡(JAPAN)・小林大祐(SOUTH AFRICA・AUSTRALIA)・井口弘一(FUTURE)
広告会社:株式会社電通
制作会社:株式会社スプーン

ナショナルカテゴリーには、ドバイで撮影された未来篇を加え四分割画面となったトヨタの『THE WORLD IS ONE』が選ばれました。

若者の恋と友情を描きながら、人間をワクワクさせるもの、つまりクルマへの憧れも、国や文化をこえて世界中で変わらないはずだというメッセージを「まったく同じ手法で4つのストーリーを四分割で映し出すというアイデア」によって実現した点などを評価されました。
受賞した2つの作品はいずれも“ブランドが記憶に残る作品”であったと感じます。そう言うと広告業界の方にはブランデッドムービーなのだから当たり前ではないかと指摘されてしまいそうですが、筆者自身はノミネート作品を観ているうちに、これらの映像をどのように評価すべきかという基準が揺らいでしまったことも事実です。

▶その他のエントリー作品はこちら
http://brandedshorts.jp/2017/screening.html

審査員のほとんどが同様の体験をしたと思われ、エッセイストの犬山紙子氏は「どれも広告の枠を超えて訴えてくるものがあり面白いが、最終的に『Notes』は “その企業のものを買ってみたくなるか”という基準に当てはまっていた」と発言したほか、ADK の高野文隆氏も審査の議論を重ねるうちに「これでブランドに着地するのかな」と感じていたそうです。

◆もう一回観てみたくなるかどうか

日本/15:00/2016
広告主:株式会社シグマ
監督:山中 有
制作会社:BLUE DOCUMENTARY・mt.Melvil

CM とも映画とも性質を異にするブランデッドムービー。15 分間で丁寧にストーリーを描き胸に迫る『blur』のような作品があるかと思えば、2 分間程度の短い作品もあります。今回 “評価”の基準を正確に掴むことはできませんでしたが、審査員トークの中にその糸口となるような、ブランデッドムービーならではの発見を感じたので紹介したいと思います。

「シェアされるコンテンツかどうか」

これも広告の視点からすると当たり前の様に思われるかもしれません。しかしエントリーされたブランデッドムービーをまとまって見る際に見落としがちなことの一つであると博報堂の長谷部守彦氏は指摘します。「見る人はブランデッドムービーというジャンルなど気にしていない。コンテンツとして共感力が高いかどうか、“これいいよ”と自分が見つけたこととして一言添えてシェアされるか。ほかのエンタメコンテンツと同じ条件で見られる中で、クリエイティブでどれだけ引っ張れるかが大切なこと」だと述べました。

「タイトルを見た上で、もう一度観る楽しさがある」

行定勲氏からは映画監督らしい視点からのコメント。「映画をつくる時のジレンマの一つに、始まって10 分くらいでメインタイトルを出さないといけない、というのがある。ブランデッドムービーは最初にタイトルがなく何の広告かわからずに観始める。観終わって最後に広告主を見た時に“あ、そうなんだ”と。その視点でもう一回観てみたくなるかどうか。また、その視点で観るとこんなに違うんだ、という発見がある」と語りました。

アメリカ/2:29/2016
広告主:Sandy Hook Promise
監督:Henry-Alex Rubin
広告会社:BBDO New York
制作会社:Smuggler

また、行定勲氏は『EVAN』という作品も例に挙げていました。「銃規制をしなきゃいけないというメッセージを発信するためにつくったと思い込んでいたが、観た後で実は被害者側がこういうことを表現しているのだと知った」のだそうです。「映像の力によって、見る人が自由にテーマを考え始めることができる。ブランデッドムービーには、どういう人がどういう立場で広告としてこの映像を打ち出そうとしているのかを知った上で動画を観る、という楽しさがある」

この“メッセージの発信者が明らかになる”というのはブランデッドムービーを定義する決定的な要素になりうると感じられた納得感のあるお話でした。

◆“借り物”でモノをつくらない

広告や映画といった枠組みを超えてブランデッドムービーとは何かを議論する中で、審査員には改めて映像の持つ特性についての気づきもあったようです。

行定勲氏と同様に、映像の力について言及したのは映像作家の関根光才氏。「映像が“自分ゴト化する力”をもっていると、グッとこざると得ない」と話します。「例えば『Understanding』という作品はLGBT の息子を持つ父親のストーリー。頭では理解していてもカラダや心の反応は追いつかない、という経験を自分ゴト化として考えさせる力がある。表現が研ぎ澄まされるとその力は圧倒的に増大していく。ブランデッドムービーにはその力が備わっていると思う」と語りました。

『Understanding』
アメリカ/2:45/2016
広告主:Kodak
監督:Terry Rayment
制作会社:Eskimo

映像の本質的な強さを感じた、と言うのはADK の高野文隆氏。「審査員の構成が面白く、映画監督は映像の表現やテーマといった“縦”の視点で深く掘り下げていく。一方で広告に携わる僕は、Web 施策として何回見られるか、ブランドに着地するのか、これでどれほど広がりを持てるのかといった“横”の視点で見ている。縦と横の視点が交錯する中で、面白いことに自分が映像の考えや哲学に引っ張られていく瞬間があった」と言います。

「広告が広告として機能しないことも多くなっている今、“観てくれる人の方を向いている”という映像の本質的な強さのある作品が生き残っているのだと実感した。広告祭の審査とはまったく違う視点を持てたことが収穫だった」と語りました。

電通の高崎卓馬氏は作り手側の視点からも違いを感じたと言います。「議論が進化していく上ですごく面白かったのは、映画監督の人たちが “借り物”でモノをつくることに対してすごく手厳しいということ。よくあるもの、本当に自分がそう思ってないのにどこかにあったような映像にしていくことに、ものすごく厳しい。ちゃんと自分が伝えたいメッセージを自分の中から見つけて、そこに嘘をつかずに追い込んでつくること以外に(選択肢は)ないんです。作り物の中に嘘があるとやっぱりダメなんだな、と新鮮でした」と驚きがあったことを語りました。

この“借り物”でモノをつくらないという考え方は、人々の共感を得ようとするこれまでの広告表現の制作現場においても存在していたとは思います。しかし、あえて純粋な表現の分野である映画の基準に照らし合わせて、嘘をついていない表現かどうかが議論されるということは、ブランデッドムービーはもはや広告の枠にはまらないモノになっている、ということの証かもしれません。

◆優れた広告は新しい文法を開発する

一方で映画界の人々にブランデッドムービーがどう見えているのか。ブランデッドムービーは「他人事じゃないカテゴリになってきた」と言う行定勲氏のほか、映画監督である山戸結希氏も次のように発言しています。
「優れた広告は新しい文法を開発すると思う。ブランデッドムービーは映画畑の人たちからは生まれることのなかった新しい映像文法。純文学や写真芸術の人たちが、広告の優れた言葉や優れたビジュアルに嫉妬するのと同じように、広告の制限に嫉妬してしまうくらい今回受賞した2 作品は優れた映像作品だと思う」と熱い思いを語りました。

◆CM と映画をつくった人が戦える場所

広告なのか、芸術なのか。ブランデッドムービーは今後どうなっていくのでしょうか。

映画祭がブランデッドムービーを評価することについて、「審査員で呼ばれた時に衝撃を受けた」と明かす高崎卓馬氏はこう言います。「最近はCM のフレームも崩壊していて広告の概念も曖昧になりつつある。何年も前から自分の仕事もそちらに寄っているのは感じていたが、まさか映画の方からこういう形でアプローチしてきたというのは衝撃だった」と境界が曖昧になっていることへの実感を語りました。

また、「映画っぽい広告だったり、広告っぽいコンテンツだったり、いろんなものがごちゃ混ぜになっていて、今はまだその中で突出して琴線に触れたものを選んでいる状態。このカテゴリは何年かして意味づけが明確になっていくのだと思う。こういう混沌の中から既存の広告の概念を壊すものが出てきてほしいと思っています」とブランデッドムービーの今後の可能性に期待を示しました。

長谷部守彦氏からは、今後のブランデッドムービーの制作の担い手について。「広告は100m 走のよう。15 秒にいかに詰め込むかということをこの50 年くらい考え続け培った技術の結晶がある。映画は2 時間という長いレースをどうつくっていくかというマラソン。だとすればブランデッドムービーは800m を走る中距離走」「15 秒のノウハウだと長過ぎて冗長になってしまうし、映画の感覚だとダイジェストになってしまう。ブランデッドムービーにはいろいろな所からいろんな人が入ってきて、CM と映画をつくった人が戦える場所になり、伸びていく分野になるのではないか」と語りました。

◆一層強い共感が必要とされている

広告制作の現場には、自分の手がけた広告を“作品”と呼ぶな、という考え方もあります。広告の表現はあくまでクライアントの課題解決のために存在するべきであって、個人の自己表現の場ではないという考え方です。

しかし今、社会はかなり高度な表現を求めています。今回の授賞式からもわかるように、より純粋な(ように見える)表現を求められた結果、ブランデッドムービーの広告色は極限まで消し去られ“作品”としても捉えられるようになりました。ブランデッドムービーというコンテンツが求められる状況は、より一層強い共感が必要とされている今の時代を映している、ということなのかもしれません。

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ライター:松尾 実花


GMO NIKKO株式会社 コミュニケーションプランニング本部 クリエイティブ部所属。
コピーライターとして、ブランディングの視点に立ったクリエイティブの企画・立案、コンテンツ制作を行う。前職にてTV、ラジオ、新聞、雑誌、交通といった媒体におけるコピーライティングを経験。ACC 地域CM部門 ファイナリスト。

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