国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア『Branded Shorts』授賞式に見るブランデッドムービーの今①

2017/7/3

6月7日、米国アカデミー賞公認のアジア最大級の国際短編映画祭ショートショートフィルムフェスティバル&アジア内において、企業や広告会社がブランディングを目的に制作したショートフィルム(ブランデッドムービー)を表彰する『Branded Shorts』の授賞式が東京・恵比寿で開催されました。本記事では、授賞式前に開催されたグローバルカンファレンスから、授賞式の審査員トークまでの様子をレポートします。

◆ショートムービーを“仕事”として撮れるようになってきた


トークゲストは左から、Yuki Saito氏(映画監督)、本広克行氏(映画監督)、Jani Guest氏(Independent Films エグゼクティブ・プロデューサー/マネージング・ディレクター)、Peter Grasse氏(Dictionary Films エグゼクティブ・プロデューサー)。モデレーターは彌野泰弘氏(株式会社Bloom&Co.代表取締役)。

「ブランディングと映像クリエイティブの最新動向」と題したグローバルカンファレンスは、カンヌライオンズなどの受賞経験を持つ世界的なトップクリエイターや、「踊る大捜査線」シリーズでお馴染みの映画監督・本広克行氏など招いて行われました。

最初の話題は、モデレーターの彌野氏からブランデッドムービーの最新の動向についてクリエイティブの立場からはどう感じるかという問いかけからスタート。

「以前ショートフィルムは、映画祭で自分を売るためのモノであり、ビジネスというよりも自分の表現をする場だった」と語るSaito氏は、ブランデッドムービーを含むWeb動画は、ここ5年で急速に増えてきていると実感があるそうです。環境が変わりショートムービーを“仕事”として撮れるようになってきたことで意識も変わったのだと言います。

海外のトレンドにおいても変化は同様のようで、Guest氏も「イギリスでもブランデッドのコンテンツは増え続けている」とコメント。また、2016年に来日したGrasse氏は「海外でも長尺のムービーを多くつくってきたわけではないが、日本においてもCMの15秒、30秒という短さの中で語れなかったストーリーを展開できるようになったと感じる。フェイスブックなどのSNSの流行で見る側の環境が変わり、ムービーの“長さ”の制約が関係なくなってきた。メディアもコストも変わってきている」と語りました。

一方、本広氏からは表現の自由度について。「自由に作らせてもらっている。本当はこれをやりたい、というものがショートではできている」これまでの動画と制約が違うことで、エッジの効いたコンセプトで動画がつくりやすくなっていると実感があるようです。

◆最後まで見てもらう、という挑戦

ここで、各トークゲストの作品を上映され、それぞれの作品の受注の経緯やオーダー、目標値についてが語られました。

Saito氏が監督したミラノ万博、日本館でのショートフィルム『しゃぶしゃぶスピリット』。世界50以上の映画祭で上映された。

まずはSaito氏の作品から。ミラノ万博、日本館で上映されたショートフィルム『しゃぶしゃぶスピリット』において「約束は、日本の食文化を伝えること」だったとのこと。こちらは実際にはWeb動画とは違い来場者を対象にしています。「主にヨーロッパの人々に向けて和食の文化を伝えるハウツー動画になっているが、ちょっと笑いを含めながら見て、その後しゃぶしゃぶを食べてもらえたらいいかなというノリでつくった」のだと説明がありました。

「和食の魅力を伝えるという約束さえ守れば、後は自由に表現していいという感じ。ターゲットは海外の方であり、教え込もうとすると失敗する。まずはエンタメとして見せて8分間見終わった後には、いろんな情報が入ってきている状態」を目指したのだそうです。

この映像を見て大笑いしていたというGrasse氏は「結婚を申し込みに彼女の家に行くのは海外も同じ。リアルで共感できるし、お面の演出に驚きがあってよかった。時間が長いからいいというわけではない。作り手のクリエイティブが見え、非常に惹きつけられるものがあった」と感想を語ります。

これに対して、特に尺の長さについてSaito氏は「オンラインで見てもらうことを考えると、どう考えても短い方がいい」と応じます。「Webにおけるブランデッドムービーは3分、4分台、かつ最初の5秒でアテンションをつけてくれと依頼されることが多く、また、どのモーメントにおいても退会されたらアウトです。いろんな工夫を少しずつ出しながらどうにかして最後まで見てもらう挑戦かなと思う」と語りました。

ここで出てきたのが“ファーストペース”というキーワード。最後まで視聴者を離さないために、スピーディに映像が展開していくテンポの良さについては、Web動画においては重要な要素として全員が認識しているようです。

◆“止めて”見る、が正解

本広氏のもと、5人の若手が監督を務めたWeb動画『踊る大空港』

一方、『踊る大空港』を指揮した本広氏は視聴完了を目指す試みとして、監督を任せた5人の後輩たちに「とにかく情報量を増やしなさい」と言っていると明かしました。「長いと飽きて見られない。どうやって最後まで見せるかということは、視聴率の戦いよりも難しい。その中で情報量を増やし“止めて”見る人が出るように、常にメッセージがある状態にする」のだと言います。

他にもWebならではの手法として、チャンネルを次々と変えさせるような感覚で第1話から第5話に飛んで視聴できるなど、「テレビドラマではありえなかった」実験的な手法を試み、「ブランドのイメージに関わるブランデッドムービーにおいて、エロと暴力を封じられてどう面白いものをつくるか」というもう一つの挑戦を語っていました。

時間の制約から自由になったWeb動画だからこその“視聴完了”という新たな課題。テンポを良く見せていく、情報量を増やすなど、これからのブランデッドムービーはCMや映画の延長線上にあるだけではなく、独自のノウハウが必要とされていくと再確認する機会になりました。

◆失敗を恐れずにやれば強くなる

Guest氏の担当したNikeのワールドカップ連動キャンペーン『Write The Future』

動画配信からわずか2日で1200万回を超える視聴回数を記録し、多くの賞を勝ち取ったNikeのワールドカップ連動キャンペーン『Write The Future』に関してGuest氏は「私の指示は、“失敗を恐れずにやれば強くなる”ということ」だったと語ります。

アスリートが集まれないなどの理由で撮影は25日間、ヨーロッパ全土において4人の監督に指示を出しながら行われたそうです。当初200万ポンドだった予算は4倍に膨れ上がりました。「撮影期間も予算も増えた。結果は1500万クリック以上、360のプレゼンスを得て、多くのサッカーファンに応援してもらい、KPIはすべて達成したと思いますよ」と桁外れの制作期間と予算、クリエイティブへの妥協なき姿勢が大きな成果をもたらしたようです。

◆アワビはNGか

Diesel キャンペーンムービー

Diesel Japan キャンペーンムービー

「Nikeよりも予算は少ないけれど、ディーゼルは自由にさせてくれる企業。制作は楽しかった」と語ったのはDiesel Japanキャンペーンムービーを手がけたGrasse氏。

「アメリカのバーションは、メキシコとの壁を想起させるような政治的なメッセージが強いもので、日本では通じにくいものだった。同じ『MAKE LOVE NOT WALLS』というメッセージを伝えるのに、“相手に対して自信がない”などの壁を乗り越えて愛し合うことが必要だというメッセージを思いついたんです」と話しました。

この映像をきっかけに、話題は日本における表現上の制約に及びます。映像中にアワビが象徴的に使用されていたことに対してSaito氏は「悩ましいところだが、日本でセクシャルな描写としてのアワビはNGになる。それをやれてしまうところが羨ましい。クライアントにMAKE LOVEを表現するのに必要だったとGrasse氏はきちんと説得できたのだろう」と発言。

これに対しGrasse氏は「以前、19世紀の浮世絵に描かれている松茸を見て、女子高生が笑っているのを見た。日本にはセクシャルな描写がたくさんある。誰もやったことのない表現ではない」と日本のブランデッドムービーにおいても幅広い表現を実現する可能性は大いにあると感じているようでした。

◆全世界に向かって何をメッセージするのか

日本におけるブランデッドムービーの今後のあり方についても意見が交わされました。「Webのここのマーケットに刺さったねとか、ここで人は見るのをやめてしまった、女性は感動するけど男性はしないなどブランデッドムービーこそ、テレビの視聴率よりも的確にマーケティングできるものだと感じる」とSaito氏。

今は、企業がCMほどの予算がかけられないためにwebムービーからスタートしようと考えるのが現実です。「終わったあとに、どれだけがクリエイティブの成果だったのか」がわかり、「“ありだね”と思われるようなものを僕らがつくられれば、予算もついていき日本のブランデッドムービーが発展していくのではないか」と語りました。

一方、本広氏は「Web動画のように全世界に向かって自由に何かを伝えるような場所を与えられると戸惑ってしまう」と悩みを語ります。
同時に「誰もが映像を編集できてしまう中、自分たちプロは何をしなくてはいけないのか」、「2時間の映画が長いと言われ、日本の実写がなくなっていくのではないか」という危機感もあったそうです。考えた結果、本広氏は「ある時期から日本人だけを相手にする」と自らターゲットを定め、その中で可能性を探りながらWeb動画の制作にあたっているそうです。

◆作り手にとって、今が一番おもしろい時期

制約がなく、次々と新しい動きが起こるこのブランデッドムービーという領域は、今が一番作り手にとっておもしろい時期となるはずです。しかしその自由さ故にクリエイター達は“この辺の層を獲ってください”と言われるCMやドラマとは違う難しさを感じているのかもしれません。

誰に何を届けるのか、成果をどこに求めるのか。発展途上とも言える日本のブランデッドムービーの可能性を拡大させるのは、これまでの枠にとらわれない柔軟な考えを持ったクライアントとクリエイター、そして両者の信頼関係こそが必須であると感じました。

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ライター:松尾 実花


GMO NIKKO株式会社 コミュニケーションプランニング本部 クリエイティブ部所属。
コピーライターとして、ブランディングの視点に立ったクリエイティブの企画・立案、コンテンツ制作を行う。前職にてTV、ラジオ、新聞、雑誌、交通といった媒体におけるコピーライティングを経験。ACC 地域CM部門 ファイナリスト。

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